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士業事務所にペーパーレス化が求められる理由

行政書士・税理士・司法書士——士業事務所は業務の性質上、大量の紙書類を扱います。許認可申請書、契約書、戸籍謄本、登記事項証明書。キャビネットを何台も並べて書類を保管している事務所は珍しくありません。

しかし、2024年1月に電子帳簿保存法の電子取引データ保存が完全義務化され、メールで受け取った請求書や領収書を紙に印刷して保存することが認められなくなりました。また、2026年1月施行の改正行政書士法では、デジタル社会への対応が努力義務として明文化されています。法制度が「紙からデジタルへ」の移行を後押しする中、ペーパーレス化はもはや「やるかどうか」ではなく「どう進めるか」の段階に入っています。

この記事では、士業事務所がペーパーレス化を段階的に進めるための実践ガイドを、調査データとともに解説します。行政書士事務所の業務効率化ガイドとあわせてお読みください。

この記事でわかること:士業のペーパーレス化の現状データ、電子帳簿保存法への対応方法、段階的な導入ステップ、ツール選定のポイント、セキュリティ対策

士業事務所のペーパーレス化はどこまで進んでいるか

インターコム社が社労士・税理士・公認会計士430名を対象に実施した調査(2024年11月)によると、電子化・ペーパーレス化に「対応済み」と回答した士業は73.5%に達しています。ただし内訳を見ると「多くの業務で対応」は27.2%にとどまり、46.3%は「部分的に対応」という状態です。

電子化が進んでいる業務導入率
各種届出書類のオンライン提出58.9%
帳簿作成・会計書類管理52.2%
納税手続・申告51.6%

一方、電子化未対応の事務所が挙げた理由のトップは「効果が不明確」(25.4%)と「顧客・取引先が対応していない」(23.7%)でした。顧客対応との兼ね合いが、士業特有の課題であることがわかります。

出典:株式会社インターコム「士業430名対象 電子化・ペーパーレス化に関する調査」(2025年2月公開)

ペーパーレス化に関わる法制度の整理

士業事務所のペーパーレス化を進めるうえで、押さえておくべき法制度を整理します。

電子帳簿保存法 義務

2024年1月より、電子で受け取った請求書・領収書等は電子データのまま保存することが義務になりました。紙に印刷して保存することは原則として認められません。

保存にはタイムスタンプの付与、または訂正・削除の記録が残るシステムの利用、もしくは事務処理規程の策定が必要です。前々年度売上5,000万円以下の事業者は検索要件が免除されます。

e-文書法(電子文書法) 任意

法律で保存が義務づけられている書類を、電子データで保存することを認める法律です。スキャナ保存には200dpi以上の解像度やタイムスタンプ付与などの技術要件があります。2022年の改正で金額制限の撤廃や電子署名の不要化など、要件が大幅に緩和されました。

改正行政書士法(2026年1月施行) 新制度

士業法として初めて「デジタル社会への対応」が努力義務として明文化されました。電子申請の活用、電子署名・電子契約の導入、クラウド・データ管理の徹底が職責として位置づけられています。日本行政書士会連合会も2023年にデジタル庁と連携協定を締結し、電子化の推進体制が整備されています。

注意:登記済証(権利証)や公正証書正本など、法令上「原本」の保管が求められる書類は電子化の対象外です。電子化の可否は書類の種類ごとに個別に確認してください。

士業事務所のペーパーレス化を段階的に進める4ステップ

ペーパーレス化を一度に進めようとすると、現場の混乱やコスト増を招きがちです。以下の4ステップで段階的に導入しましょう。

  • 01
    現状把握と対象業務の洗い出し(1〜2か月) まず、事務所内で紙を使っている業務をすべてリストアップします。「法的に電子化できる書類」と「原本保管が必要な書類」を分類し、電子化の優先順位を費用対効果で評価します。この段階を飛ばすと、投資対効果の低い領域に時間とコストを費やしてしまうリスクがあります。
  • 02
    高効果の業務から電子化を開始(2〜4か月) 最も効果が出やすい領域から始めます。具体的には、①e-Taxによる電子申告(法人税申告のe-Tax利用率は既に92%超)、②請求書・領収書の電子保存(電子帳簿保存法の義務対応)、③給与明細の電子配付(士業調査で満足度83%)の3つが最初の一歩として推奨されます。社内完結する業務を優先することで、顧客への影響を最小限に抑えられます。
  • 03
    社内ルール・マニュアルの整備(フェーズ2と並行) 電子帳簿保存法に対応する「事務処理規程」の策定、アクセス権限の設定ルール、ファイル命名規則の統一を行います。また、スタッフへのツール操作研修も欠かせません。「PDFにするために紙を印刷してスキャン」という逆行が起きないよう、目的と手順を明確にしましょう。
  • 04
    顧客対応の範囲を段階的に拡大(4〜12か月目) 電子契約や書類のオンライン回収など、顧客との接点を伴う電子化は段階的に進めます。IT対応が可能な顧客から順に切り替え、高齢の顧問先など紙での対応が必要なケースは併存させます。書類依頼を1回で完了させるコツ5選で紹介している依頼方法の工夫と組み合わせると、顧客側の負担を軽減できます。

ペーパーレス化に役立つツールの選び方

ツール選定で重要なのは、「すべてを一つのツールで賄おう」としないことです。業務領域ごとに適切なツールを選びましょう。

業務領域代表的なツール選定のポイント
クラウドストレージGoogle Workspace / Microsoft 365 / Boxアクセス権限の細かさ、顧問先との共有のしやすさ
電子契約クラウドサイン / GMOサイン法的信頼性、相手方のアカウント不要(立会人型)
スキャナ・OCRScanSnap / Adobe Acrobat Pro検索可能PDF生成、クラウド連携
会計・税務freee / マネーフォワード / 弥生会計 Next電子帳簿保存法対応、顧問税理士との連携
書類回収Docly顧客アカウント不要、自動リマインド

顧客からの書類回収は、メール添付の限界が見えてきたら仕組みで解決することを検討してください。書類回収・管理システムDoclyなら、URLを送るだけで書類依頼が完了し、提出状況もリアルタイムで把握できます。催促メールの手間も書類催促メールの例文テンプレート5選と自動リマインド機能の組み合わせで解消できます。

ペーパーレス化で押さえるべきセキュリティ対策

士業事務所は守秘義務が課せられており、顧客の財務データ・マイナンバー・個人情報など極めて機密性の高い情報を扱います。ペーパーレス化を進める際は、以下のセキュリティ対策が不可欠です。

  • 通信・データの暗号化
    送受信時(SSL/TLS)と保管時の両方でデータを暗号化。リモートアクセスにはVPNを使用する
  • アクセス権限の詳細設定
    フォルダ・ファイルごとに「閲覧のみ」「編集可」「ダウンロード禁止」を設定。担当外の顧客データへのアクセスを遮断する
  • 操作ログの記録
    「いつ・誰が・どのファイルに・何をしたか」を記録。不正アクセスの早期発見と内部統制に機能する
  • バックアップの多重化
    3-2-1ルール(3つのコピー・2種類の媒体・1つをオフサイト保管)を推奨。ランサムウェア対策としてオフラインバックアップも確保する
  • クラウドサービスの選定基準
    国内データセンター設置、守秘義務条項の明記、法人向け専用プランの利用を確認。個人向け無料サービスの業務利用は避ける

まとめ — 士業事務所のペーパーレス化は小さく始めて確実に

ペーパーレス化は「全か無か」ではありません。効果の高い領域から段階的に進め、社内の習熟度に合わせて範囲を広げていくのが成功の鍵です。

  • 現状把握から始める — 電子化できる書類とできない書類を分類する
  • 法制度を正しく理解する — 電子帳簿保存法の義務対応を最優先に
  • 高効果の業務から着手 — 電子申告・請求書保存・給与明細の3領域が最初の一歩
  • 顧客対応は段階的に — IT対応が可能な顧客から順に切り替える
  • セキュリティは妥協しない — 暗号化・アクセス制御・バックアップを徹底する

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