要件を「満たす」より「証明する」が本番
建設業許可の新規申請は、要件の一覧を眺めている段階ではさほど難しく見えません。実際に詰まるのは、要件を満たしているかどうかではなく、それを許可行政庁が納得する資料で証明できるかどうかです。経営経験や実務経験は本人の記憶にはあっても、契約書や確定申告書という形で手元に残っていないことが珍しくありません。
特に知事許可の新規は、受任してから申請までのリードタイムが読みにくい案件です。審査そのものの期間は短くても、資料集めに1〜2か月かかることがあり、ここを見誤ると顧問先の受注スケジュールに直接響きます。初回ヒアリングでどこまで潰せるかが、案件全体の工数を決めます。
この記事では、知事許可(一般建設業)の新規申請を前提に、区分の判断、要件ごとの証明資料、費用と期間、そして2025〜2026年の改正で変わった実務ポイントを、受任から申請までの順に整理します。数値や運用は許可行政庁ごとに差があるため、最終確認は必ず申請先の手引きで行ってください。
最初に固める3つの区分──知事か大臣か、一般か特定か、そもそも許可が要るか
建設業法第3条第1項により、営業所を一の都道府県の区域内にのみ設ける場合は都道府県知事許可、二以上の都道府県に設ける場合は国土交通大臣許可になります。判断基準は「工事をどこでやるか」ではなく「営業所をどこに置くか」です。県外の現場を施工することだけを理由に大臣許可が必要になるわけではありません。
次に一般か特定かです。発注者から直接請け負った工事について、下請契約の請負代金の額の合計が5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)となる場合は特定建設業許可が必要です。この金額は令和7年(2025年)2月1日施行の政令改正で、4,500万円/7,000万円から引き上げられました。改正前の資料をそのまま流用すると誤案内になります。
そもそも許可が要るのか、という入口も確認します。いわゆる軽微な建設工事(建築一式工事は1,500万円未満または延べ面積150平方メートル未満の木造住宅、それ以外の工事は500万円未満)は許可不要です。この判定は消費税込みで行われ、建設業法施行令第1条の2第3項により、注文者が材料を提供する場合はその市場価格(および運送賃)を請負代金に加えて判断します。
| 区分 | 基準 | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| 知事許可 / 大臣許可 | 営業所が1つの都道府県内か、2以上の都道府県か | 建設業法第3条第1項 |
| 軽微な建設工事(許可不要) | 500万円未満/建築一式は1,500万円未満または木造住宅で延べ150㎡未満 | 建設業法施行令第1条の2。消費税込み、支給材料を加算して判定 |
| 特定建設業 | 下請契約の請負代金の合計が5,000万円以上(建築一式は8,000万円以上) | 令和7年2月1日施行の政令改正で引上げ |
| 許可の有効期間 | 5年(5年ごとに更新) | 満了日の30日前までの提出を求める許可行政庁が多い |
許可要件を「証明資料つき」で棚卸しする
一般建設業の許可要件は、常勤役員等(経営業務の管理責任者等)、営業所技術者等、誠実性、財産的基礎、適切な社会保険への加入、そして欠格要件に該当しないこと、という構成です。ヒアリングシートを作るときは、要件名だけでなく「何で証明するか」を一列足しておくと後戻りが減ります。
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01
常勤役員等 建設業法施行規則第7条第1号。建設業に関し5年以上の経営業務の管理責任者としての経験などで満たすイのルートのほか、常勤役員等と、その者を直接に補佐する者の体制で満たすロのルートがあります。
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02
営業所技術者等 建設業法第7条第2号。指定学科の高卒後5年以上、大学・高専卒後3年以上、または実務経験10年以上、もしくは所定の国家資格。営業所ごとに常勤で置く必要があります。
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03
誠実性 同条第3号。請負契約の締結や履行に際して不正または不誠実な行為をするおそれが明らかでないこと。法人の役員等や令3条使用人まで確認の対象になります。
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04
財産的基礎 同条第4号。自己資本500万円以上、500万円以上の資金調達能力(金融機関の残高証明書等)、または直前5年間許可を受けて継続して営業した実績のいずれか。
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05
社会保険 施行規則第7条第2号。健康保険・厚生年金保険・雇用保険について適用事業所の届出を行っていること。令和2年10月1日から許可要件に位置づけられています。
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06
欠格要件 建設業法第8条。破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者、許可を取り消されて5年を経過しない者、暴力団員等などが該当します。確認対象となる役員等の範囲を取り違えやすい論点です。
このうち実務の山場は最初の2つです。誠実性と欠格要件は、原則として申請書と身分証明書・登記されていないことの証明書で足り、社会保険は届出の控えで足ります。財産的基礎も、資本金が500万円以上ある法人なら財務諸表で完結します。逆に言えば、常勤役員等と営業所技術者で詰まらなければ、案件は静かに進みます。
常勤役員等と営業所技術者──初回ヒアリングで潰す2点
常勤役員等は、令和2年10月1日の改正で「許可を受けようとする建設業に関し」から「建設業に関し」へと整理され、業種をまたいだ経営経験を通算できるようになりました。あわせて、一定の役員経験を持つ常勤役員等に、財務管理・労務管理・業務運営を、申請者となる建設業者における建設業の業務経験としてそれぞれ5年以上経験した補佐者を組み合わせるロのルートも用意されています。
ただし、緩和されたのは要件の中身であって、証明のハードルではありません。個人事業主時代の経験を使うなら確定申告書、法人の役員経験なら登記事項証明書、実質的な経営経験なら工事請負契約書や注文書を年数分そろえる必要があります。「5年分の裏付け書類が現存するか」を初回で確認しておけば、後から年数が足りないという事故を避けられます。
営業所技術者等は、実務経験10年ルートを選ぶと証明資料の量が一気に増えます。1級・2級の施工管理技士などの国家資格があれば合格証明書等で足りるため、取得済み・受検予定の資格は必ず洗い出してください。なお令和6年12月13日施行の改正により、従来の「専任技術者」は「営業所技術者」(特定建設業では「特定営業所技術者」)へ名称が変わりました。要件そのものに変更はありませんが、事務所の説明資料やヒアリングシートは更新が必要です。
- 実務経験の証明に使う工事請負契約書・注文書に、対象業種の工事内容が読み取れる記載があるか
- 経験期間が重複していないか(同一期間の重複計上は原則として認められません)
- 常勤性の確認資料が、許可行政庁が現在認めている書類の種類に合っているか
- 営業所の実体を示す資料(賃貸借契約書、外観・内部の写真等)を用意できるか
手数料・標準処理期間・JCIP──スケジュールの逆算
知事許可の新規申請手数料は9万円です(一般・特定を同時に新規申請する場合は18万円とする自治体が一般的)。更新および業種追加は5万円、大臣許可の新規は登録免許税15万円、大臣許可の更新・同一区分の業種追加は収入印紙5万円という建て付けです。納入方法は自治体ごとに差があり、東京都では令和7年1月6日からキャッシュレス決済も導入されています。
標準処理期間は、知事許可でおおむね30日程度、大臣許可で90日程度と案内する許可行政庁が多く見られます。ただしこれは形式上の不備がない申請を前提とした期間で、補正に要する期間は含みません。顧客に伝えるべきは審査期間そのものではなく、資料収集を含めた全体日数です。
電子申請は、令和5年(2023年)1月10日に運用が始まった建設業許可・経営事項審査電子申請システム(JCIP)が利用できます。利用にはデジタル庁のGビズIDが必要で、手数料はPay-easyでの納付とする自治体があります。承継の認可申請など一部の手続を電子申請の対象外としている例もあるため、案件ごとに対応範囲を確認してください。
| 項目 | 知事許可 | 大臣許可 |
|---|---|---|
| 新規 | 9万円(一般・特定同時は18万円) | 登録免許税15万円 |
| 更新・同一区分の業種追加 | 5万円 | 収入印紙5万円 |
| 標準処理期間の目安 | おおむね30日程度 | おおむね90日程度 |
| 電子申請 | JCIP(GビズIDが必要) | JCIP(GビズIDが必要) |
2025〜2026年の実務アップデート
直近で影響が大きいのは常勤性の確認資料です。健康保険被保険者証は令和6年12月に新規発行が停止され、既存の証も経過措置が令和7年12月1日で終了したため、令和7年12月2日以降の申請では健康保険証を常勤性の確認資料として使えないとする許可行政庁が出ています。代替として資格確認書、保険者が発行する「資格情報のお知らせ」、マイナポータルの資格情報画面などが案内されていますが、認められる資料の範囲は自治体ごとに異なります。
法令面では、令和7年(2025年)12月12日に改正建設業法が全面施行され、労務費に関する基準や契約書面の記載事項が整備されました。新規許可の要件そのものが変わったわけではありませんが、許可取得後の請負契約実務に直結するため、顧問対応まで受けるなら押さえておく必要があります。また令和8年(2026年)7月1日施行の建設業法施行規則改正に伴い、経営事項審査の様式や手引きが改正されています。
加えて、令和2年10月1日から建設業法第17条の2・第17条の3に事業承継および相続の認可制度が設けられています。事前に認可を受ければ譲渡・合併・分割で許可を承継でき、相続の場合は被相続人の死亡後30日以内に認可申請を行うことで、許可の空白期間を避けられます。新規申請の相談として来た案件が実は承継案件だった、というケースもあるため、最初の聞き取りで確認しておくと安全です。
まとめ:段取りの精度が単価を決める
建設業許可の新規申請は、要件の暗記ではなく段取りの設計で差がつきます。区分(知事か大臣か、一般か特定か、そもそも許可が要るか)を最初に確定させ、常勤役員等と営業所技術者の証明資料が現存するかを初回で見極める。この2ステップを丁寧にやるだけで、補正の回数と顧客とのやりとりが目に見えて減ります。
費用と期間についても、手数料9万円・標準処理期間おおむね30日という数字だけを伝えると、顧客の期待値と実態がずれます。資料収集を含めた全体スケジュールで説明し、更新(満了日の30日前まで)や決算変更届といった許可取得後の義務までセットで案内すると、単発の受任が継続的な関与につながりやすくなります。
そして数値・様式・確認資料の運用は、許可行政庁ごとに、また年度ごとに動きます。本記事の数値は2026年8月時点で公表されている国土交通省および各都道府県の情報に基づくものです。実際の申請にあたっては、必ず申請先の最新の手引きで確認してください。
Q. 知事許可でも他の都道府県の工事を請け負えますか。
A. 請け負えます。知事許可と大臣許可の区分は営業所の所在地で決まるもので、施工場所を制限するものではありません(建設業法第3条第1項)。県外に営業所を新設する場合は許可換え新規の手続が必要になるため、拠点展開の予定はヒアリング時に確認しておくとよいでしょう。
Q. 「500万円」が要件の中に何度も出てきて混乱します。違いは何ですか。
A. 別々の基準です。ひとつは許可が不要な軽微な建設工事の上限(1件の請負代金500万円未満、建築一式工事は1,500万円未満または延べ150平方メートル未満の木造住宅)で、もうひとつは一般建設業の財産的基礎(自己資本500万円以上、または500万円以上の資金調達能力)です。前者は工事1件あたりの金額、後者は会社の財務状況を見る基準で、判断のタイミングも資料も異なります。
Q. 常勤役員等は代表取締役でなければなりませんか。
A. 代表取締役に限られません。常勤の役員等であれば足り、個人事業主本人や支配人が該当する場合もあります。また、施行規則第7条第1号ロのルートでは、常勤役員等に加えて財務管理・労務管理・業務運営を、申請者となる建設業者における建設業の業務経験としてそれぞれ5年以上経験した補佐者を配置することで、組織として要件を満たす方法も用意されています。該当し得る人がいるかを早めに洗い出すことが有効です。
Q. 営業所技術者を実務経験10年で証明する場合、どこまで資料が必要ですか。
A. 原則として10年の期間を通してカバーできる工事請負契約書、注文書・請書、請求書と入金確認などを求められます。ただし、建設業許可業者での勤務経験については実務経験証明書と許可通知書の写しで足りるとする運用の自治体もあり、求められる資料の粒度は許可行政庁によって差があります。着手前に申請先の手引きと窓口で確認してください。
Q. 電子申請(JCIP)にすると許可は早く下りますか。
A. 標準処理期間そのものが短縮されるわけではありません。メリットは窓口への往訪や郵送、副本管理の手間が減る点にあります。利用にはGビズIDが必要で、手数料はPay-easyでの納付とする自治体があります。承継の認可申請など一部の手続は対象外とされている例もあるため、案件ごとに対応範囲の確認が必要です。
証明資料が集まるまでの記録が、次の案件の下敷きになる
常勤役員等や営業所技術者の証明は、どの資料でどこまで足りたかが会社ごとに違います。その試行錯誤をメールの検索に頼って思い出していると、似た案件が来るたびに同じ確認からやり直すことになります。RenRakuは横断検索で過去のやり取りを本文からたどれるうえ、顧客カードの履歴とメモに「この資料で足りた」という結果を残せます。使い回せる案内を定型文テンプレートにしておけば、初回ヒアリングで潰したい論点をその場で送れます。
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※ 本記事は2026年8月時点の法令および公表情報に基づく一般的な解説です。手数料、標準処理期間、提出書類、常勤性の確認資料などの運用は許可行政庁(都道府県・地方整備局)ごとに異なり、法令改正により変更される場合があります。実際の申請にあたっては、必ず申請先の最新の手引きおよび担当窓口でご確認ください。