行政書士事務所の案件管理 — Excelの限界が見え始めるタイミング
許認可申請、相続手続き、契約書作成、在留資格——行政書士が並行で抱える案件は業務分野によって必要書類も期限も大きく異なります。開業当初は1案件ずつエクセルファイルや紙ファイルで管理しても回せますが、並行案件が増えてくると、書類の所在・期限・進捗の全体像を即答しにくくなる事務所が出てきます。
この記事では、行政書士事務所の案件管理に絞って「専用ツールが少ない理由」「汎用ツールでどう設計するか」「業務分野別の管理項目」「導入のアンチパターン」までを実務目線で整理します。士業事務所の業務ツールの選び方ガイドもあわせて参考にしてください。
本記事は行政書士業務に特化した案件管理の実装ガイドです。許認可・在留資格・相続を中心に、汎用ツール(kintone・Notion・HubSpot CRM・Airtable)の使い分けと、業務分野別の管理項目テンプレートを紹介します。
行政書士事務所の案件管理が他士業と違う3つの理由
弁護士・税理士事務所には専用の案件管理システムが多数存在します。一方、行政書士向けに業務分野横断で使いやすい専用案件管理システムは選択肢が限られるため、実務上は汎用ツールを事務所の業務に合わせて設計する方法が現実的です。背景となる理由は3つあります。
① 業務分野の幅が広く標準化が困難
行政書士は、許認可申請を中心に非常に幅広い行政手続を扱う資格です。建設業許可・在留資格・相続・離婚協議書・車庫証明・古物商・農地転用・産業廃棄物——必要書類も期限管理も分野ごとに大きく異なります。「すべての行政書士に当てはまる管理項目」を標準化できないため、汎用ツールをカスタマイズする方向にならざるを得ません。
② 案件あたりの単価・期間にばらつきがある
建設業許可申請のように比較的単価が高く数週間から数ヶ月単位で進む案件と、車庫証明のように短期間・定型処理になりやすい案件が同じ事務所内に混在します。1件あたりの管理に投じられる時間がまったく違うため、車庫証明のような数で稼ぐ業務は「件数の管理」、建設業許可のような重い案件は「個別の進捗・書類管理」と、性質の違う管理を同じシステム内で両立させる必要があります。
③ 期限管理の対象が多種多様
処理期限(標準処理期間)、依頼者から書類を集める期限、許可の有効期限(5年・3年など)、年次の決算変更届、更新案件——行政書士事務所では複数の「期限」を同時に管理する必要があります。建設業許可だけでも、新規申請の処理期限、毎年の決算変更届、5年ごとの更新申請の3層を顧問先ごとに追いかけるイメージです。
行政書士向け案件管理ツールを選ぶ5つの軸
「どのツールを選ぶか」より先に、自事務所が何を管理したいのかを整理する方が結果的に近道です。以下の5軸でツール候補を絞り込みます。
業務分野別のテンプレート設計
建設業許可・在留資格・相続など、扱う分野ごとに必要書類リストとステータス遷移が違う。1つの汎用テーブルで足りるか、分野別アプリを分けるかを最初に決める。
期限アラートの強さ
「3日前」「7日前」「30日前」のリマインドが顧問先別に組めるか。許可の有効期限・更新時期の年単位の管理ができるかも重要。
1人〜数名の小規模で使える価格
kintoneは最小10ユーザー(月¥10,000〜)、Notionは1人から無料、HubSpotは2人まで無料。1人事務所〜補助者数名まではNotion・HubSpotが現実的。
顧客と共有できるか
顧客に「進捗を見せる」用途で使うなら、外部共有・閲覧専用ビューが必須。HubSpotはコンタクト管理機能で顧客側との連動がしやすい。
書類回収との連携
案件管理ツール単体では書類回収はできない。Doclyのような書類回収SaaSと組み合わせる前提で設計する。
行政書士事務所で使える汎用ツール4選
行政書士の業務特性上、専用ツールではなく汎用ツールのカスタマイズが現実解です。代表的な4ツールを比較します。
| ツール | 料金 | 無料枠 | 得意な領域 |
|---|---|---|---|
| kintone | ライト¥1,000・スタンダード¥1,800/人/月(税抜・最小10ID) | 30日試用 | 分野別アプリの構築 |
| Notion | Free / Plus / Business等(円建て価格は公式で確認) | 無料プランあり | 1〜数名の柔軟な管理 |
| HubSpot CRM | 無料CRMあり / Starter Customer Platform $20/月/seat | 無料プランあり | 顧客×案件のパイプライン |
| Airtable | Team $20/人/月(年払い)または$24/人/月(月払い) | 無料プランあり | 表+ビュー切替の柔軟性 |
kintone — 業務分野別アプリの構築に強い
サイボウズが提供するノーコード業務アプリ構築プラットフォームです。建設業許可申請管理アプリ、在留資格申請管理アプリ、相続手続き管理アプリ——分野ごとに必要書類・ステータス遷移・期限項目を別々に設計できる柔軟性があります。期限が近づいた案件の通知、ステータスごとの一覧表示、CSV一括取り込みも標準機能。
ただし最小契約が10ユーザーからのため、ライトコース(¥1,000/人・税抜)でも月額¥10,000が下限になります。実利用5名規模でも10ユーザー分の費用が発生するため、補助者を含めて10名以上の規模で本来のコストパフォーマンスが出るツールです。5名前後の事務所では実質ユーザー単価が2倍相当になる点を踏まえて検討が必要です。
Notion — 1人事務所の柔軟な管理に
個人プランは永年無料で、データベース機能で案件管理ボードを構築できます。1つのデータベースに「建設業」「在留資格」「相続」のタグを付けて分類し、ボード表示でステータス管理、テーブル表示で期限一覧、カレンダー表示で月別の作業ボリュームを確認、と1つのデータが複数ビューで切り替わるのが強み。
1人事務所〜補助者1名程度で、厳格な権限分離や監査ログを強く求めない運用であれば、Notionで小さく始める選択肢もあります。補助者が増え、案件数や顧問先が多くなり、検索性・権限管理・担当者別の進捗確認が重くなってきた段階では、kintoneやHubSpotなどへの移行を検討します。
HubSpot CRM — 顧客と案件の関係を可視化
本来は営業支援ツールですが、「取引(Deal)」パイプライン機能を案件管理として活用できます。「問い合わせ → 面談 → 受任 → 書類収集 → 申請 → 完了」のステージを設定し、各案件がどの段階かをカンバン表示で把握。顧客(Contact)と案件(Deal)が紐付くため、同じ顧客の複数案件をまとめて見られるのも実務的なメリットです。
無料プランでも、コンタクト管理や取引パイプラインなどの基本機能を試せます。利用人数・機能制限・シート条件は変更される可能性があるため、導入前に公式の料金・機能表を必ず確認してください。新規受任の流れを管理したい開業初期の事務所と相性が良く、新規顧客受付フローの仕組み化とセットで設計するのが効果的です。
Airtable — 表+ビューの柔軟性が強み
スプレッドシートとデータベースの中間にあるツールで、英語UIですが日本語データの管理に問題はありません。1つのテーブルから「グリッド」「カンバン」「ガントチャート」「カレンダー」のビューを切り替えられ、ガントチャートで期限の重なりを可視化できる点が他ツールにない強み。Teamプランは年払いで$20/人/月、月払いで$24/人/月のため、無料プランで試したうえで、有料化後の費用に見合う運用かを確認する必要があります。
業務分野別の管理項目テンプレート
どのツールを選んでも、結局のところ「何を管理するか」の項目設計が成否を左右します。行政書士事務所でよく扱う4分野について、最低限管理しておきたい項目を整理しました。
建設業許可(新規・更新・決算変更届)
建設業許可は5年更新と毎年の決算変更届で長期間関与する業務です。新規・更新・変更を案件ステータスで切り分け、有効期限・決算月を顧問先プロフィール側で管理する二層構造が機能します。
- 顧問先名、許可種別(知事/大臣・一般/特定)、許可番号、許可有効期限
- 経営業務管理責任者・専任技術者の氏名と証明資料の所在
- 毎年の決算月、決算変更届の提出期限(決算後4ヶ月以内)
- 業種追加・営業所追加等のスポット案件の進捗
在留資格申請(認定・変更・更新・永住)
在留資格は1人の外国人申請者を時系列で長く支援する業務です。在留期限の管理、雇用先の変更追跡、家族滞在の連動更新まで含めて1つのレコードで追えるよう設計します。
- 申請人氏名(漢字・ローマ字)、国籍、生年月日、在留カード番号
- 現在の在留資格、在留期限、次回更新の目安日
- 所属企業(カテゴリー1〜4)、雇用形態、職務内容
- 家族構成(家族滞在ビザの連動更新が発生)
相続手続き
相続案件は戸籍収集の進捗と相続人の合意形成という2つの軸で管理します。戸籍は出生から死亡までを順に取得していくため、どこまで集まったかを可視化することが重要です。
- 被相続人氏名、死亡年月日、最終本籍地
- 相続人一覧(氏名・続柄・住所・連絡可否)
- 戸籍収集ステータス(被相続人出生〜死亡まで何枚目か)
- 遺産分割協議書ドラフト版数、確定日、署名状況
車庫証明・自動車登録(数で稼ぐ業務)
車庫証明は定型・反復処理になりやすく、ディーラー等から継続的に受注する事務所では、個別案件の詳細よりも件数・処理日数・地域別ルートの管理が重要になります。
- 受付日、ディーラー名、車種、所有者名
- 申請警察署、申請日、交付予定日
- 処理ステータス(受付→申請→交付待ち→納品済)
- ディーラー別の月次集計
案件管理ツール導入のアンチパターン5選
案件管理は「ツールを入れたが活用しきれない」失敗が多発する領域です。先に避けたい失敗パターンを把握しておくと、定着しやすくなります。
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01
すべての項目を最初から完璧に作ろうとする 「管理したい項目」を初日から多く並べすぎると、入力負担が増えて定着しにくくなる。最初は本当に必要な項目に絞り、運用しながら追加する
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02
1つのテーブルですべての分野を管理しようとする 建設業許可と車庫証明を同じ管理項目で扱おうとすると、項目が膨れ上がる。分野別アプリ(kintone)か、分野タグでビュー分け(Notion)が現実的
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03
「とりあえず無料」でNotion以外を選ぶ 無料プランの制約(ユーザー数・件数)を見落とすと、本格運用後に有料プランへの強制移行で混乱する。最初から有料前提で設計する方が結局は早い
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04
期限の自動通知を設定しない カレンダーアプリの個別登録だけに頼ると、人が忘れたら全部止まる。ツール側のリマインド機能を必ず使う
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05
書類回収まで案件管理ツール内で完結させようとする 案件管理ツールでファイル添付すると、顧客側の操作性が悪く回収が滞る。書類回収はDoclyのような専用SaaSで分離する設計が結果的にスムーズ
kintoneで作る建設業許可管理アプリの設計例
具体例として、補助者を含めて10名規模に近い行政書士事務所がkintoneで建設業許可案件を管理する場合のアプリ設計を示します(kintoneは最小10ユーザー契約のため、規模感の参考としてください)。
顧問先マスタアプリ(基本情報)
顧問先ごとの基本情報を1レコードで管理。許可番号・有効期限・経営業務管理責任者・専任技術者は顧問先側に紐づくため、ここに集約します。
顧問先マスタ ├─ 顧問先名 / 法人番号 / 代表者 ├─ 許可種別(知事or大臣・一般or特定) ├─ 許可番号 / 許可日 / 有効期限 ├─ 経管・専技の氏名と証明資料の保管場所 ├─ 決算月 / 直近の決算変更届提出日 └─ 顧問契約有無 / 顧問料
案件アプリ(個別の申請を管理)
新規申請・業種追加・更新・決算変更届——すべて「案件」として1レコード化し、顧問先マスタにルックアップで紐付けます。
- 案件種別(新規/更新/業種追加/決算変更届/その他)
- 受任日、希望完了日、行政庁の標準処理期間
- 進捗ステータス(受任→書類収集中→提出済→補正対応中→完了)
- 担当行政書士、補助者、顧問先(マスタへのルックアップ)
- 必要書類チェックリスト(経管証明・専技証明・財務諸表・残高証明など)
- 申請日、補正連絡受領日、許可通知日
更新案件は、許可有効期限の数ヶ月前から準備通知を行い、提出期限に間に合うように90日前・60日前・30日前など複数段階でリマインドを設定します。決算変更届は事業年度終了後4ヶ月以内の提出期限を前提に、決算月の2〜3ヶ月後など早めの時点で準備通知を出すと漏れにくくなります。
TechSyncで事務所運営に最適化した受託システム開発を相談する
汎用 SaaS では足りない部分を埋めるのは、自事務所のフローに合わせた専用システムです。TechSync は士業事務所に特化したシステム開発会社として、案件管理・顧問先管理・スタッフ進捗共有・見積管理・KPI ダッシュボードなど、事務所の業務フローに合わせた受託システムをご提供します。
事務所専用の業務システムを受託開発する
既存ツールでは届かない範囲だけを内製化したい、複数ツールを束ねて運用したい——そんな相談から設計・要件定義・開発までワンストップで対応します。
> TechSyncに相談する行政書士の案件管理に関するよくある質問
Excelでの案件管理から専用ツールに移行すべきタイミングは?
常時並行案件が30件を超え、補助者を含めて2名以上で同じファイルを編集する場面が出てきたあたりが移行検討の目安です。Excelでは複数人同時編集の上書きリスク、検索性の低下、期限管理の漏れが顕在化します。Notionの個人プランは永年無料、HubSpotは2名まで無料なので、Excel管理に限界を感じた段階で並行運用から始められます。
行政書士に特化した案件管理システムはありますか?
2026年時点で、行政書士業務に完全特化したシステムは市場にほぼ存在しません。許認可業務の種類が多岐にわたり標準化が困難なため、kintone・Notion・HubSpot・Airtable等の汎用ツールを業務に合わせてカスタマイズするのが現実的な選択肢です。建設業許可・在留資格・相続など分野別にアプリを分けて設計するのが定着の鍵になります。
1人事務所におすすめの組み合わせは?
Notion(永年無料)+ Docly(月額980円・税込)+ Googleカレンダー(既存)の3点セットが現実的です。Notionで案件と顧客の管理、Doclyで書類回収、Googleカレンダーで期限と予定の管理という役割分担です。受任が増えてきた段階でNotionをHubSpot CRMに切り替えると、顧客×案件のパイプライン管理が強化されます。
kintoneは1人事務所でも導入する価値がありますか?
kintoneは最小契約が10ユーザーからのため、1人事務所でも月額1万円が下限となります。価格対効果で考えると、1人事務所はNotionやAirtableの方が手頃です。kintoneは補助者を含めて10名規模に近い事務所、業務分野別にアプリを完全に分けたい事務所、案件数・顧問先が多く複雑な権限管理が必要な事務所で活きます。
許認可の更新案件はどう管理するのが効率的ですか?
顧問先マスタ側に「許可有効期限」「決算月」を1レコードずつ持たせ、期限の30日前・90日前・180日前にリマインドが飛ぶよう設定するのが基本形です。建設業許可は5年更新と毎年の決算変更届の二層、産業廃棄物は5年更新、古物商は変更事項の都度届出、と分野ごとに更新サイクルが違うため、業務分野別に通知ルールを変えると漏れが減ります。
案件管理ツールで顧客と進捗を共有してもよいですか?
HubSpot CRMはコンタクト共有機能があり、顧客側にも進捗を見せる運用が可能です。一方、Notionの共有リンクは公開範囲の設定に注意が必要で、Notionデフォルトの公開設定だと検索エンジンにインデックスされる可能性があります。顧客との共有は権限管理が前提なので、Doclyのような顧客向けポータル機能を持つツールで分離する方が安全です。
まとめ — 行政書士の案件管理は「分野×期限×顧問先」の三層設計
行政書士事務所の案件管理は、専用ツールがほぼ存在しない領域です。だからこそ、汎用ツールをいかに業務に合わせて設計するかで成果が変わります。
- 1人事務所 — Notion(無料プランあり)で案件×顧問先を管理、Doclyで書類回収を分離
- 2〜4名事務所 — HubSpot CRM(無料プランあり。有料化条件は公式で確認)で顧客×案件のパイプライン化
- 5名以上 — kintoneで分野別アプリを構築、補助者まで権限管理
- 共通 — 期限の自動リマインド、書類回収はDoclyに分離、顧客との共有は権限管理を前提に設計
ツール選定は「最初から最終形を狙う」より「今の規模に合うものを選び、増えたら移行する」方が定着します。ペーパーレス化ガイドやクラウドストレージ比較とあわせて、事務所のIT基盤を一段ずつ整えていくのが現実的な進め方です。
※ 本記事の料金・機能情報は2026年5月時点のものです。各ツールの料金・プラン体系は随時改定されるため、契約前には必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
※ 業務分野別の管理項目テンプレートは一般的な実務観点の例示であり、個別事案の必要書類は所管行政庁の最新の手引きで必ず確認してください。