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税理士事務所のDXが「努力義務」になった時代

2023年4月、改正税理士法で新設された第2条の3により、税理士には「電磁的方法の積極的な利用」が努力義務として課されました。e-Taxの利用率は法人税で89.1%(令和6年度)に達し、インボイス制度の導入で80.6%の税理士が業務増加を報告しています(freee調査 2024年3月)。

一方で、日本税理士会連合会の第7回実態調査(令和6年)によると、税理士の53.6%が60歳以上。20〜30歳代はわずか6.6%にとどまり、高齢化が進む業界でDX推進は喫緊の課題です。

この記事では、税理士事務所のDXをクラウド会計電子申告インボイス対応書類回収業務自動化の5領域に分け、公的データと導入事例をもとに実践的に解説します。

税理士業界の現状 — 数字で見るDXの必要性

まず、税理士業界が直面している構造的な課題を整理します。

指標数値出典
税理士登録者数82,451人日税連(2026年2月末)
税理士法人数5,284法人日税連(2026年2月末)
60歳以上の割合53.6%第7回実態調査(令和6年)
20〜30歳代の割合6.6%第7回実態調査(令和6年)
繁忙期の平均残業27.33時間/月マネーフォワード調査
月45時間超残業の事務所約40%マネーフォワード調査
業務改善が必要と回答80%以上Mikatus調査(2021年, n=126)

確定申告シーズン(1〜3月)は閑散期の約2.4倍の残業が発生し、約40%の事務所が月45時間を超える残業を報告しています。人手不足と高齢化が進む中、手作業を前提とした業務フローには限界があります。

クラウド会計ソフト — 3大サービスの比較

MM総研の2025年3月調査によると、個人事業主のクラウド会計ソフト利用率は38.3%(前年比+4.6pt)。上位3社で93.7%のシェアを占めています。

サービスシェア法人向け月額(税抜)特徴
弥生55.4%3,480円〜(弥生会計 Next)最大2か月無料体験あり。27年連続販売No.1
freee24.0%2,980円〜(ひとり法人)法人税申告まで一気通貫
マネーフォワード14.3%2,480円〜(ひとり法人)バックオフィス全体の連携に強い

クラウド会計の導入は記帳代行の自動化に直結します。長田千賀子税理士事務所ではfreee導入により、法人税申告処理が7〜8時間から約2時間に短縮されました。月次決算の処理時間も半減しています。

顧問先への導入支援を行う際は、事前にクラウドストレージの選定も重要です。士業向けクラウドストレージ比較も参考にしてください。

e-Tax・電子申告 — 利用率と今後の展望

e-Taxの利用率は年々上昇を続けており、令和6年度の総利用件数は約7,580万件と過去最高を記録しました。

税目利用率(令和5年度)令和6年度
法人税86.2%89.1%(+2.9pt)
所得税69.3%個人確定申告74%
相続税37.1%50.3%(12.2万件, +43.4%)

資本金1億円超の法人は2020年4月以降、電子申告が義務化されており、法人税・消費税・地方税の全申告書と添付書類が対象です。自宅からのe-Tax確定申告は824万人に達し、20〜40代では8割超がe-Taxを利用しています(令和6年分)。

KSK2 — 次世代国税システム(2026年9月稼働予定)

国税庁は現行の国税総合管理システム(KSK)を刷新し、2026年9月にKSK2を稼働させる予定です。約2,300種類の帳票にAI-OCRを適用し、紙の申告書も自動読み取り。マイナンバーや法人名で税目横断の情報検索が可能になり、AIによる税務調査対象の選定も強化されます。税理士事務所側のデジタル対応がますます重要になります。

インボイス制度が税理士業務に与えた影響

2023年10月1日に施行されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、税理士の業務負荷は大きく増加しています。

業務増加の実態 +1.4倍

freee株式会社の2024年3月調査(税理士・会計士196名対象)によると、80.6%の税理士・公認会計士がインボイス制度で業務が増加したと回答。36.2%が「20〜39%増加」と報告しています。バクラク(LayerX)の同時期の調査では、業務量は平均で約1.4倍に増加しました。

負荷が大きい業務 TOP3

最も負荷が大きいのは仕訳時の税区分の正確な判定(35.8%)、次いで受領した請求書が適格かの確認(33.8%)、特例適用の判断(33.8%)です。手作業での確認は膨大な時間を消費します。

経過措置の変更 2026年改正

令和8年度税制改正で、免税事業者からの仕入控除の経過措置が見直されました。2026年10月以降の控除率は当初の50%から70%に引き上げ。個人事業主向けの2割特例は3割特例に移行し、令和10年分(2028年12月)まで延長されています(個人事業主のみ対象・法人は対象外)。

インボイス対応の事務負担を軽減するには、クラウド会計ソフトの自動仕訳機能やAI-OCRの活用が有効です。制度変更への追従もソフトウェアのアップデートで対応できるため、手動管理からの脱却が急務です。

業務効率化の実践事例 — 残業90時間→9時間の事務所も

DX導入による効率化は、すでに多くの税理士事務所で実証されています。

伊藤会計事務所 マネーフォワード

「不夜城」と呼ばれた事務所が、マネーフォワード クラウド導入で繁忙期の残業を月90時間超→9時間に削減(約90%減)。年間数千時間の効率化を達成し、採用面でも半年間応募ゼロの状態から最大2,000人の応募を集めるまでに改善しました。

年末調整の電子化 MJS

MJSの試算では、800人規模の企業で紙ベースの年末調整は1人あたり45分。MJS Edge Trackerの導入で8分に短縮され、年間493時間を削減。OBCの事例では、中電シーティーアイが294時間→91時間への短縮を実現しています。

RPAの活用 自動化

税理士法人ブレインパートナーはRPA導入初年度の確定申告シーズンだけで500時間を削減。人件費換算で約100万円の削減に成功しました。別の税理士法人では年間1,400時間・約250万円相当の効率化を達成しています。

書類回収の効率化もDXの重要な柱です。顧問先からの書類集めに時間を取られている場合は、顧客への書類依頼を1回で完了させるコツや、メール添付 vs クラウド書類回収の比較も参考にしてください。

税理士法・電子帳簿保存法 — DXに関わる法令整理

税理士法の改正ポイント(2023年4月施行)

  • 01
    第2条の3(ICT活用努力義務) 税理士は電磁的方法の積極的利用を通じて、納税義務者の利便向上と業務の改善進歩を図るよう努めなければならない
  • 02
    第40条(二箇所事務所禁止の柔軟解釈) 国税庁基本通達の改正により、自宅でのリモートワークは「二箇所事務所」に該当しないことが明確化。看板等の物理的表示・ウェブサイト・契約書等に記載しなければ問題なし
  • 03
    第38条(守秘義務) 正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らすと、2年以下の懲役または100万円以下の罰金。クラウドサービス利用時のセキュリティ管理が重要

電子帳簿保存法(2024年1月完全義務化)

電子取引データの電子保存が全事業者に義務化されました。税理士事務所は自らの電子取引への対応に加え、顧問先の電子帳簿保存法対応を支援する立場にあります。保存要件(真実性・可視性)を理解し、適切なツール選定をアドバイスすることが求められています。

リモートワークでの業務遂行については、士業事務所のリモートワーク実践ガイドでツール選定やセキュリティ対策を詳しく解説しています。

税理士事務所のDX推進 — 5つのステップ

  • Step 1: クラウド会計の導入
    まずは新規顧問先からクラウド会計を標準化。freee・マネーフォワード・弥生から、事務所の顧問先構成に合ったサービスを選定する
  • Step 2: 書類回収のクラウド化
    メール添付や郵送での書類回収をクラウドに移行。Doclyのような書類回収特化ツールを使えば、URLを送るだけで顧問先から書類を集められる
  • Step 3: コミュニケーションツールの統一
    SMC税理士法人では顧問先1,400社全社にChatworkを導入し必須条件に。電話・FAXからの脱却で応答時間を大幅に削減
  • Step 4: 年末調整・給与計算の電子化
    freee人事労務やSmartHRで年末調整をペーパーレス化。従業員の入力はスマートフォンから最短3分で完了
  • Step 5: RPAによる定型業務の自動化
    データ転記・帳票作成・ファイル整理など、繰り返し作業をRPAで自動化。確定申告シーズンの負荷を構造的に削減する

まとめ — 税理士事務所のDXは制度対応と人材確保の両輪

税理士法改正によるICT活用努力義務、電子帳簿保存法の完全義務化、インボイス制度の業務増——制度面からDXを求められる場面は年々増えています。同時に、業界の高齢化と人手不足を考えれば、業務効率化は事務所の存続そのものに関わる課題です。

  • クラウド会計 — 弥生・freee・マネーフォワードの3社で93.7%。記帳代行の自動化で申告処理時間を大幅短縮
  • e-Tax — 法人税89.1%、所得税74%。2026年9月のKSK2稼働で税務行政のデジタル化がさらに加速
  • インボイス制度 — 80.6%の税理士が業務増。経過措置の見直しへの対応もクラウドなら自動
  • 業務効率化 — 残業90時間→9時間の事例も。RPA活用で初年度500時間削減の実績
  • 書類回収 — メール添付から脱却し、クラウド回収で催促・管理を自動化

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