開業1年目は「記帳の習慣化」と「期限管理」が土台になる
行政書士の開業1年目は、売上が安定しないなかで登録費用・会費・設備などの支出が先行します。経費管理の巧拙はそのまま手元資金に直結するため、開業初月から記帳を習慣化し、青色申告の要件を満たす体制を整えておくことが重要です。なお、自分の事業の記帳・確定申告は誰でも自分で行えますが、他者の税務相談・税務代理・税務書類の作成は税理士法第2条・第52条により税理士の業務です。本記事はあくまで行政書士自身の事業経理の基本整理であり、個別の税額計算や節税判断は税理士に確認してください。
開業時に出す2つの届出と期限
開業初期に税務署へ提出する書類は次の2つが基本です。青色申告の特典を受けるには申請期限の管理が欠かせません。
| 書類 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 納税地の税務署 | 開業した年分の所得税の確定申告期限まで(原則翌年3月15日) |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 納税地の税務署 | 原則はその年の3月15日。1月16日以後に新たに開業した場合は開業日から2か月以内(その年分から青色を適用する場合) |
青色申告承認申請書を出し忘れると、その年は白色申告となり青色申告特別控除や赤字の繰越しが使えません。開業届とあわせて同時提出するのが安全です。
経費にできる費目と「開業費」「家事按分」
事業のために支出した費用は経費に計上できます。行政書士特有の費目としては、登録関連費用や会費があります。
| 区分 | 例 | ポイント |
|---|---|---|
| 登録・会費関連 | 登録免許税30,000円・登録手数料25,000円・入会金・月会費 | 入会金や会費は単位会により異なる。会費は経費。登録免許税・手数料は開業費に含めて処理する考え方もある |
| 開業費(繰延資産) | 開業前の準備費用(名刺・印鑑・備品・研修費等) | 繰延資産として任意償却が可能。利益が出た年にまとめて償却するなど調整余地がある |
| 家事按分 | 自宅兼事務所の家賃・電気・通信費・車両費 | 事業使用割合で按分。面積比・使用時間など合理的な基準と根拠を残す |
| その他 | 書籍・判例集・ソフト利用料・交通費・職務上請求書の購入費 | 事業との関連性を説明できる範囲で計上 |
自宅の一室を事務所にする場合、家賃や水道光熱費・通信費のうち事業に使う割合を「家事按分」で経費にできます。床面積の割合や業務時間の割合など、誰が見ても説明できる基準で按分し、その根拠をメモとして残しておくと安心です。
青色申告特別控除65万円の要件
青色申告特別控除は最大65万円ですが、65万円を受けるには要件があります(令和2年分以後)。
- ✓複式簿記による記帳
正規の簿記の原則(一般的に複式簿記)で記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付します。 - ✓期限内申告
その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに提出します。 - ✓e-Tax電子申告 または 優良な電子帳簿保存
このいずれかを満たすと65万円。満たさない場合は55万円、簡易簿記は10万円となります。電子帳簿保存で65万円控除を受ける場合は、仕訳帳・総勘定元帳について優良な電子帳簿の要件を満たし、所定の届出が必要です。クラウド会計で複式簿記に対応し、e-Taxで申告する方法が一般的な選択肢です。
インボイス制度と開業初期の消費税
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は2023年10月1日に開始しました。免税事業者がインボイス発行のために課税事業者を選択した場合、納税額を売上税額の2割に抑えられる「2割特例」が用意されています(令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が対象)。開業直後にインボイス登録すべきかは取引先(顧客が課税事業者で仕入税額控除を要するか等)により判断が分かれるため、登録の要否と消費税の有利不利は税理士に確認するのが安全です。
主な根拠・一次ソース
- 国税庁 No.2070 青色申告制度
- 国税庁 No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)
- 行政書士法(e-Gov法令検索)
- 税理士法(e-Gov法令検索)
よくある質問
Q. 開業費はいつ経費にできますか?
A. 開業前の準備費用は「開業費」として繰延資産に計上でき、任意償却が認められています。利益が出た年に必要な分だけ償却するなど、年度をまたいで調整できる点が特徴です。具体的な計上方法は税理士にご確認ください。
Q. 家事按分の割合はどう決めますか?
A. 自宅兼事務所の家賃・光熱費・通信費などは、事業に使う割合で按分します。床面積比や業務時間の割合など、第三者に説明できる合理的な基準で算定し、根拠資料を残しておくことが重要です。
Q. 青色申告承認申請書の提出期限はいつですか?
A. その年分から青色申告を適用する場合、原則はその年の3月15日、1月16日以後に新たに開業した場合は開業日から2か月以内です。開業届と同時に提出しておくと出し忘れを防げます。
Q. 開業初年度からインボイス登録は必要ですか?
A. 取引先が課税事業者で仕入税額控除を求めるかどうかなどにより判断が分かれます。免税事業者が課税事業者を選ぶ場合は2割特例も検討対象です。消費税の有利不利は税理士に確認するのが安全です。
Q. 記帳や申告は自分でやるべきですか、税理士に頼むべきですか?
A. 自分の事業の記帳・申告は自分で行えます。クラウド会計を使えば開業1年目でも対応可能ですが、売上規模が大きくなったり判断に迷う論点が出てきたら税理士への依頼を検討してください。
TechSyncで士業事務所の記帳フロー・バックオフィス効率化を相談する
開業直後は実務と経理を一人で回すことになります。クラウド会計の初期設定、請求・入金管理、電子帳簿保存法に対応したファイル運用などを最初に整えておくと、繁忙期に経理が滞りません。TechSyncは士業事務所のバックオフィス効率化とツール選定をご支援します。
※ 本記事は一般的な情報提供であり、税務に関する個別具体的な判断・税額計算・節税アドバイスではありません。税理士でない者は、税理士法第2条・第52条により、他者の税務相談・税務代理・税務書類作成を業として行えません。ご自身の申告でも判断に迷う場合は税理士にご相談ください。