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契約書作成は「どこまで行政書士が扱えるか」の線引きが最重要

契約書作成は行政書士の業務範囲ですが、業際リスクが最も問われる領域のひとつです。弁護士法第 72 条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件・非訟事件及び審査請求・再調査の請求・再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを禁止しています。契約書作成業務では、この非弁行為に該当しないよう、慎重な受任設計が必要です。

本記事では、行政書士が安全に扱える契約書作成の範囲、実務でよく扱う契約書の類型別ポイント、2020 年 4 月施行の改正民法(契約不適合責任など)と 2026 年 4 月施行の家族法改正(共同親権・親子交流)への対応までを整理します。業際全般の整理は行政書士の業際境界線、業務範囲外の表現は行政書士の報酬設定の考え方もあわせてご覧ください。

行政書士が扱える契約書作成の範囲(行政書士法 vs 弁護士法第72条)

原則として、当事者間で争いがなく、既に合意内容が決まっている契約書の作成・書面化(権利義務に関する書類の作成、行政書士法第 1 条の 2)が行政書士の業務範囲です。紛争性のある事案の交渉・代理・仲裁は弁護士法第 72 条で弁護士独占となります。

扱える範囲扱えない範囲(弁護士・司法書士業務)
合意済みの内容の書面化紛争を前提とする契約交渉の代理
個別依頼に基づく契約書案・条項案の作成具体的紛争・訴訟・調停を前提とする法的判断や条項設計
契約条項の文言調整(紛争なき範囲)相手方との法的交渉・示談金額の交渉
公正証書化の事前準備(公証人と連携)遺留分の交渉・金額決定
定款・社内規程の作成家庭裁判所提出書類の作成(司法書士法第 3 条第 1 項第 4 号・司法書士の独占業務)

受任後に紛争性が表面化した場合は、「業務範囲外のため弁護士をご紹介します」と速やかに切り替える判断を持つことが、行政書士法上の自身の守りにもなります。

実務でよく扱う契約書の類型と作成ポイント

売買契約書(民法第 555 条〜)

物品・不動産・権利等の売買。2020 年 4 月施行の改正民法により「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」(民法第 562 条〜)に置き換わっています。追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除の整理を条項に反映し、引渡し時期・所有権移転時期・危険負担の規定も明確にします。不動産売買契約書は宅建業法の重要事項説明と連動するため、宅建業者との役割分担も明示。

建設工事請負契約書(建設業法第 19 条)

建設業法第 19 条に基づく法定記載事項(工事内容・請負代金・着工日と完成日・前金払や出来高払の定め等)を網羅。建設業の顧問先には、建設業法 19 条準拠の自社ひな型整備サービスとして提案可能です。下請取引については建設業法第 19 条の 3(不当に低い請負代金の禁止)、第 24 条の 3〜第 24 条の 8 等(下請代金の支払・特定建設業者の指導等)の規律にも留意。

業務委託契約書・準委任契約書

業務範囲・成果物の有無・委託料・期間・秘密保持・契約解除条件。請負(仕事の完成)と準委任(事務処理)の違いを明確に。再委託の可否、知的財産権の帰属、競業避止義務など、業種により論点が変わります。

賃貸借契約書(民法第 601 条〜・借地借家法)

建物・土地・駐車場等。賃料・期間・解約条項の設計。借地借家法は宅地・建物の賃貸借に強行的に適用される条項が多く、借主保護の規定を遵守。普通借家と定期借家の選択、原状回復義務の範囲を明示。

金銭消費貸借契約書(民法第 587 条〜)

個人間・法人間の金銭貸借。返済条件・利息・遅延損害金・連帯保証人・期限の利益喪失条項。利息制限法・出資法の上限金利を遵守。個人が根保証契約の保証人となる場合(個人根保証契約)は、改正民法(2020 年 4 月施行)第 465 条の 2 により極度額の定めが必要です。また、事業のための貸金等債務を個人が保証する場合は、原則として公正証書による保証意思宣明が必要(民法第 465 条の 6)。単発の金銭消費貸借における通常の連帯保証と個人根保証で取扱いが異なるため、契約類型を確認します。強制執行認諾文言付き公正証書化は公証役場と連携

遺産分割協議書(民法第 906 条〜)

相続案件における権利義務に関する書類として作成。全相続人の実印と印鑑証明書添付、不動産は司法書士の相続登記資料との整合も必要。紛争性が表面化した時点で弁護士へ引き継ぎ。

離婚協議書

財産分与・養育費・親子交流(面会交流)等の取り決め。2026 年 4 月 1 日施行の改正民法(令和6年法律第33号)により、従来「面会交流」と呼ばれてきた事項について、第766条第1項では「父又は母と子との面会及びその他の交流」が「父又は母と子との交流」に改められ、法務省資料等で「親子交流」という表現が用いられています。あわせて、第766条の2(父母以外の親族と子との交流)、第817条の13(婚姻中別居時の親子交流)等が新設されました。共同親権制度(改正民法第819条、同日施行)に関する合意内容を記載する場合も、行政書士は合意済み事項の書面化に限定し、親権者の指定・変更をめぐる紛争や家庭裁判所手続に関する判断は弁護士等へ引き継ぐ必要があります。紛争性が表面化した時点では弁護士業務に該当するため、合意済み内容の書面化に限定して受任します。家庭裁判所への調停申立書類の作成は司法書士法第 3 条第 1 項第 4 号に基づき司法書士業務(裁判所・検察庁・法務局に提出する書類の作成)であり、行政書士は対応できません。

業際リスクを避ける5つの実務習慣

  • 初回ヒアリングで「争い」の有無を明示的に確認
    「相手方とどこまで合意できているか」「揉めていないか」「過去に意見対立や紛争の兆候はなかったか」を初回で具体的に質問。争いの兆候があれば弁護士紹介に切り替え。
  • 契約交渉の代理は一切行わない
    条件を相手方と交渉することは行政書士業務を超え、弁護士法第 72 条違反のおそれ。「私の業務範囲は依頼者から伺った合意内容の書面化まで」と契約書冒頭・受任契約書で明示。
  • 受任契約書で業務範囲を限定
    「合意済みの内容の書面化を業務範囲とし、紛争解決のための交渉・代理・調停・訴訟は業務範囲外です」と契約書に明記。後日の業際トラブル防止になる。
  • 受任後の変化に注意(紛争化監視)
    受任時は合意済みでも、後から紛争化することがある。署名・押印前に再度「相手方と問題なく合意できていますか」を確認し、状況が変わったら速やかに弁護士へ引き継ぐ判断を持つ。

契約書業務で避けるべき表現と受任設計

業際リスクが顕在化するのは「交渉・代理・紛争解決を行政書士が担う」と読まれる表現です。書類タイプ単位での一律 NG ではなく、「相手方との交渉が含まれるか」「個別の法的判断・金額査定を伴うか」が分岐点になります。当事者間で既に合意が成立している場合の示談書・合意書・遺産分割協議書・離婚協議書の書面化は、行政書士法第 1 条の 2 の「権利義務に関する書類」として扱えます。

  • 「相手方との交渉代行」「示談交渉サポート」「契約交渉サポート」 — 相手方と交渉する/相手方を相手に示談を成立させる、と読まれる表現は弁護士法第 72 条のおそれ。合意済み内容の書面化や、依頼者側の文案整理サポートに限定する旨を明示
  • 「離婚交渉サポート」「慰謝料相場の試算」「養育費の算定」 — 具体的事案における請求可否・金額判断・交渉方針の助言は弁護士業務。協議離婚で合意済み内容の書面化に限定する
  • 「内容証明文案サポート」(紛争性ある場合) — 紛争の相手方に対する意思表示を伴うものは弁護士業務のおそれ。一般的な事実通知レベルなら扱えるが、紛争性の判別を初回面談で行う
  • 「契約書チェック・法的リスク診断」(紛争前提) — 具体的紛争を前提とした法的判断・交渉方針・訴訟を見据えた修正提案は弁護士業務。争いがない前提での文案整理・表現調整に留める
  • 「契約トラブル対応」「紛争解決サポート」 — 紛争性ある法律事務(弁護士法第 72 条違反のおそれ)。受任前のヒアリングで紛争兆候を確認し、該当すれば弁護士紹介に切り替え

契約書作成を受任する前のチェックリスト

業際リスクの兆候を初回面談で漏らさずチェックするため、受任前のチェックリストを整理します。

  • 当事者間で主要条件(金額・期間・債務内容)が合意済みか
  • 相手方との交渉・代理を求められていないか
  • 既に紛争・請求・拒絶・内容証明・調停申立て等が発生していないか
  • 契約類型ごとの強行法規・許認可・税務論点(消費税・印紙税)の検討が必要か
  • 公正証書化・登記・税務申告が必要な場合の連携先(公証役場・司法書士・税理士)を確認しているか
  • 受任契約書で業務範囲(「合意済み内容の書面化」)と業務範囲外(交渉・代理・調停)を明示できるか

主な根拠法令・一次ソース

行政書士の契約書作成に関するよくある質問

Q. 行政書士は契約書を作成できますか?

A. 当事者間で争いがなく、合意内容が定まっている場合には、行政書士法第 1 条の 2 に基づく「権利義務に関する書類」として、契約書の作成・書面化を扱える場合があります。紛争性ある事案や交渉代理は弁護士業務、登記が必要な場合は司法書士業務との連携が前提です。

Q. 行政書士は契約書のレビュー・チェックをできますか?

A. 争いがない前提での文案整理・表現調整であれば業務範囲内です。ただし、具体的紛争を前提とした法的判断、交渉方針の提示、訴訟を見据えた修正提案は弁護士業務にあたります。紛争の兆候があれば弁護士紹介に切り替えるのが安全です。

Q. 示談書や合意書は行政書士が作成できますか?

A. 既に当事者間で合意が成立している内容を文書化する場合は扱える余地があります。一方、示談金額の交渉、相手方との代理交渉、紛争解決方針の助言は弁護士業務となるため対応できません。受任時には「合意済み内容の書面化に限定」を明示します。

Q. 改正民法(2020年4月施行)で契約書作成業務はどう変わりましたか?

A. 「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」(民法第 562 条〜)に変更され、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除の整理が必要になりました。個人根保証契約の極度額の定め(民法第 465 条の 2)、定型約款の規律(民法第 548 条の 2〜)も新設されています。古いひな型のままだと無効・効力に疑義が生じる条項があるため、自社ひな型の総点検を依頼者に提案できます。

Q. 2026 年 4 月施行の家族法改正は離婚協議書の作成にどう影響しますか?

A. 共同親権制度(改正民法第 819 条)と、改正民法第 766 条第 1 項の文言改正(「面会交流」→「親子交流」)が 2026 年 4 月 1 日に施行されました。第 766 条の 2、第 817 条の 13 も新設されています。離婚協議書の文言を最新条文に合わせ、共同親権・単独親権の選択、親子交流の頻度・方法の合意内容の書面化に対応します。紛争性ある事案、家庭裁判所提出書類の作成、調停代理は行政書士業務外のため、合意済み内容の書面化に限定して受任します。

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※ 契約書作成の業際判断は個別事案により異なります。争いが予見される案件は速やかに弁護士と連携してください。

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